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(特別記事)令和5年度春期ITストラテジスト試験 午後I 問1解説!教材内容をそのままでシリーズ

  • 執筆者の写真: SS
    SS
  • 4月1日
  • 読了時間: 12分

問1 SNS運営会社のブロックチェーンを活用したIT戦略に関する次の記述を読んで、設問に答えよ。


❶A社は、ブログやコミュニケーションサイト、ソーシャルメディアに関連するアプリケーションソフトウェアの提供などのソーシャルネットワーキングサービス(以下、SNSという)を運営する企業で、A社の会員とともにA社を取り巻くデジタル空間内の経済活動(以下、A社経済圏という)を拡大する経営方針を掲げている。A社は、主にスポンサー企業からの広告収入、会員からの課金収入、提携企業へのマーケティングに関するデータ提供サービス事業の収入がビジネスの柱になっている。(設問1-ヒントA)近年、積極的なM&Aを行い、プリペイド型の電子マネーを扱う電子決済サービス事業、暗号資産取引サービス事業などを獲得し、SNSを中核にしてサービスの種類を拡張させてきた。

A社の会員は、A社のSNSを利用して、デジタルコンテンツを参照したり電子マネーを利用したりする。それだけでなく、デジタルコンテンツを活用した投稿や評価コメントの投稿など、積極的に情報を発信(以下、貢献活動という)して、A社のサービスの活性化や発展に貢献してくれている。そこで、A社は会員との互恵関係を強化することで、A社経済圏を拡大する新たなIT戦略を検討することとし、現状の課題を分析した。


 

段落❶の役割

■ 序論(事業の全体像・目的の提示)

❶【A社の事業概要と戦略方針】

・SNS事業を展開し、デジタル経済圏の拡大を目指す企業であること

・ビジネスモデル(広告/課金/データ提供)

・M&Aにより新規サービスを統合してきたこと

→ 本事例の背景と方向性を提示(設問1の前提)


 

❷[A社が抱える課題]

A社は、会員との互恵関係の状況を把握する重要な経営指標として、会員のSNS利用におけるアクティブ会員数の月間伸び率(以下、MAU伸び率という)を測定している。しかし、最近は、サービスの種類を拡張しているにもかかわらず、MAU伸び率は鈍化している。このまま鈍化の傾向が続いていくと、スポンサー企業や提携企業からの収入に影響するだけでなく、IT戦略の前提にも影響があるとA社は考えている(設問1-ヒントB)

A社は、会員が行った貢献活動に対して、A社サービス内で使えるポイントを付与する仕組みによって顧客体験価値(UX)を高めている。しかし、現在の仕組みでは、M&Aで新サービスを獲得した場合、そのサービスの既存のポイント付与システムを、都度A社システムと連携させて動かしているので、A社システム全体への影響を調査し、対応を検討して、慎重に進める必要があり、拡張は容易ではない。今後は、A社サービス共通に使えるポイントを所定の条件を満たせばすぐに付与したいが難しく、会員が期待するUXをタイムリーに提供できていない。このことが、MAU伸び率を鈍化させている原因とA社は認識している。(設問2-ヒントA)

A社は、会員が行った貢献活動に関する所定の条件が満たされれば、A社サービス共通に使えるポイントがすぐに付与される仕組みを提供することでUXを高め、顧客の囲い込みを図ることができると考えている。

そこでA社は、ブロックチェーンの技術を応用し、改ざんや取引履歴の削除が困難な自律分散システムであるプライベート型のブロックチェーンネットワークを構築し、A社経済圏の拡大を実現するIT戦略を立案することにした。


 

段落❷の役割

■ 本論①(課題の提示)

❷【現状の課題:MAU伸び率の鈍化】

・MAU(アクティブ会員数)の伸び悩み=IT戦略の前提に影響

・ポイントシステムが拡張困難でUXを損ね、MAU鈍化の原因に

→ 課題の明確化(設問1と2の解答根拠)


 

[新しいポイント付与システム]

❸A社は、プライベート型のブロックチェーンネットワークを活用して、貢献活動を行った会員に対して、迅速に、公正で、より魅力的なポイント付与の仕組みを構築して、MAU伸び率を改善することを計画した。

A社は、新たなサービスを獲得した際にも、会員の貢献活動に関する所定の条件に応じてポイントを自動的に付与するための検討を行った。A社は、ブロックチェーンに、設定されたルールに従って取引を自動的に実行するスマートコントラクトを組み合わせたポイント付与システムを構築することとした。スマートコントラクトは、ルールを事前にプログラムとして実装する仕組みであり、会員の貢献活動に関する所定の条件が満たされれば、ポイントを付与するプログラムが自動実行され、ポイントが自動的に付与される。サービス間を横断するキャンペーンなどの複雑な条件判定が必要な場合でも、自動的にポイントが付与される仕組みを実現できる。

A社は、会員が、付与されたポイントをA社の全ての有償サービスに利用したり、会員同士で贈呈したりできるようにする。さらに、プリペイド型の電子マネーを扱う電子決済サービスと連携し、A社経済圏の外部でも使える専用のコインへの交換を可能にすることにした。この交換によって、外部の経済圏と連携できるようになり、A社の各サービスの中でもポイントの流動化が促進され、会員との互恵関係が強化されると考えた。


 

段落❸の役割

■ 本論②(解決策の導入と狙い)

❸【ブロックチェーン技術の導入とIT戦略】

・ポイント即時付与、自動化、UX改善

・スマートコントラクト活用

・ポイントの流動化(サービス横断、社外コイン連携)

→ 新システムの機能的改善(設問2)


 

[信頼度スコアによる監視の仕組み]

❹A社は、SNS上の様々な会員の行動から信頼度スコアを記録し、それを基に会員向けに信頼度ランクを公開している。具体的には、会員の投稿の閲覧数やコメント投稿数などを定量化して記録するものである。信頼度スコアの高い会員には、ポイントの付与率を高く設定する仕組みがある。また、A社は、会員に対してガイドラインを定めており、コミュニティ内における過度な中傷などの重要なトラブルについては、会員からの通報やAI検知による監視によって、加害者への注意喚起やアカウント停止などを行う仕組みで対処してきた(設問3-ヒントA)A社は、信頼度スコアの仕組みと監視の仕組みとを連携させて、会員が安心してSNSを楽しめる仕組みを提供することで、更なるコミュニティの活性化を図ることとした。


 

段落❹の役割

■ 本論③(信頼性の担保)

❹【信頼度スコア×監視システムの連携】

・会員の活動データを元にランク付け

・トラブル行為には通報/AI検知で対応

・これらを統合して安全なコミュニティを実現

→ UX改善と会員維持施策(設問3)


 

[マーケットプレイスの構築]

❺A社は、具体的な取組を進めていく際に、自社のSNS上の公式アカウントを使って議論や情報交換を行うコミュニティを立ち上げて、会員同士で様々な意見を取り交わしてもらいながら会員の声を吸い上げた。

その結果、A社の会員には、デジタルコンテンツをより利活用したり、貢献活動に対してさらに充実した特典を獲得したり、同じ趣味嗜好をもった会員同士でもっと簡単に交流したいニーズがあることが分かった。

これらのニーズに対してA社は、プライベート型のブロックチェーンネットワーク上でデジタルコンテンツに唯一性を付与する非代替性トークン(以下、NFTという)を活用することにした。A社は、自社や提携企業がもつ画像や音声などのデジタルコンテンツのメタデータが含まれるNFTをポイントで取引できるマーケットプレイスを構築して、会員が、アート、写真、イラスト、音楽などの様々なジャンルのNFTを取引できるようにする。①NFTには、独自にスマートコントラクトを実装できるので、単純なNFT取引だけではなく、A社からコミュニティへの参加権や限定商品の購買権の付与など、柔軟な特典の提供が可能である

また、NFTでは一般的に、一次流通の際に著作者に収益の還元を行うが、A社は、独自に実装したスマートコントラクトを用いて転売などの二次流通においても、その収益の一部を著作者に自動的に還元する仕組みを構築することにした。(設問4(2)-ヒントA)


 

段落❺の役割

■ 本論④(新たな収益創出とコミュニティ拡張)

❺【NFTマーケットプレイスの構築】

・NFTにより会員同士の交流、唯一性ある特典の付与

・スマートコントラクトにより参加権・限定特典を提供(下線①)

・二次流通においても著作者へ収益還元(設問4(2))

→ ユーザーのニーズ充足(設問4(1))、著作還元モデル(設問4(2))


 

❻マーケットプレイスにおいては、会員に対して、所有するNFTや取引するためのポイントを管理するウォレット機能、所有するNFTを出品する機能、を購入する機能を提供する。A社は、マーケットプレイスの機能の提供によって、ポイントを獲得するための会員の貢献活動や、NFTを取引するための会員同士の交流が活発になり、スポンサー企業や提携企業からの収入にも波及して、A社経済圏が成長していくと考えた。

A社は、NFTの取引履歴やスマートコントラクトの実行履歴などを収集し、匿名化した上で趣味嗜好などの傾向を可視化しようと考えている。A社はこのブロックチェーンの特性を生かして、可視化したデータを用いて提携企業とのビジネスの拡大も企画した。(設問4(3)-ヒントA)


 

段落❻の役割

■ 結論(データの活用による将来展望)

❻【NFTデータの可視化とビジネス拡大】

・取引・活動履歴の匿名分析

・提携企業に提供し、マーケティング支援に利用

→ 新たな事業展開の基盤(設問4(3))


 


設問1[A社が抱える課題]について、MAU伸び率の鈍化によって影響を受けるIT戦略の前提とは何か。40字以内で答えよ。

設問2[新しいポイント付与システム]について、A社は、新しいポイント付与システムでどのような仕組み上の課題に対処しようとしたか。40字以内で答えよ。

設問3〔信頼度スコアによる監視の仕組み〕について、A社は、会員が安心してSNSを楽しめるようにするために、信頼度スコアの仕組みと監視の仕組みとを連携させた、どのような仕組みを提供しようと考えたか。35字以内で答えよ。

設問4[マーケットプレイスの構築]について答えよ。

(1) A社は、本文中の下線①の仕組みを活用することで、会員のどのようなニーズに応えることを狙ったのか。35字以内で答えよ。

(2) A社は、本文中の下線①の仕組みを用いて、会員間の取引や、会員への特典提供以外のどのような仕組みにも活用しようと計画しているか。35字以内で答えよ。

(3) A社は、可視化した趣味嗜好の傾向のデータを、提携企業へのどのような事業で生かそうと考えたか。30字以内で答えよ。



AURAIT解答例

設問1

回答(40字以内)

互恵関係を強化し会員増加することでA社の経済圏が拡大する前提

解説

  • ヒントAより、A社は、スポンサー企業や提携企業からの広告収入・課金収入などをビジネスの柱としています。ここから、収益拡大のためには、サービス利用者(会員)数やアクティブ会員数の増加が欠せないこと、が推察できます。

  • ヒントBより、MAU(アクティブ会員数)伸び率の鈍化は、会員が増え続けていくことを前提とした「A社経済圏の拡大戦略」に直接影響します。すなわち、会員との互恵関係を強化し、増加し続ける会員と共に経済圏を拡大することがA社のIT戦略における重要な前提となっているのです。


設問2

回答(40字以内)

新規サービスを取得でもポイント付与を即時・自動化できない

解説

  • ヒントAより、A社はM&Aを通じて獲得したサービスごとに、ポイントシステムの連携を都度手動・慎重に進めていました。その結果、「A社サービス共通ポイント」を速やかに付与できない状態がユーザ体験(UX)を損ね、MAU伸び率を低下させる一因となっています。

  • 新しいポイント付与システムでは、「新サービスをすぐにA社のポイント付与基盤へ連携し、自動で条件を判定し付与できる仕組み」を目指すことで、この拡張性の課題に対処しようとしていることが読み取れる。


設問3

回答(35字以内)

信頼度評価とコミュニティ監視を組み合わせ、安心して利用できる仕組みを提供すること

解説

  • ヒントAより、A社はSNS上の様々な行動をスコア化し、信頼度ランクを設定しています。同時に、誹謗中傷や重大トラブルをAI検知や通報で対処する仕組みを持っています。

  • 「信頼度スコアの仕組み」と「監視の仕組み」を連携させることで、コミュニティ内での安心感を高め、会員が積極的に活動しやすい環境を作ることが狙いです。


設問4

(1) 回答(35字以内)

NFTを活用した限定特典やコミュニティ参加を求めるニーズへの対応

解説

  • 本文中の下線①では、NFT取引だけでなく、スマートコントラクトを使った「参加権」「限定商品の購買権」などの付与が可能であると述べられています。

  • A社の会員は、より特別感のあるデジタルコンテンツやコミュニティへの参加特典を求めており、NFTを通じて唯一性を担保しながら特典を受け取れる点が大きな魅力となります。


(2) 回答(35字以内)

二次流通での収益を著作者へ還元できる独自スマートコントラクトの仕組み

解説

  • ヒントAより、一般的なNFTでも一次流通で著作者へ収益が還元されますが、A社は二次流通時にも著作者に還元できるようスマートコントラクトを拡張しています。

  • つまり、「会員間の取引や特典」以外にも、転売時のロイヤリティ管理といった仕組みにも活用しようとしているのです。


(3) 回答(30字以内)

提携企業へのデータ提供サービスとしてのマーケティング活用

解説

  • ヒントAより、A社は、ブロックチェーンに記録された取引・実行履歴を匿名化し、趣味嗜好などを可視化するとしています。

  • これを、提携企業がマーケティングに活用できる形で提供することで、さらなるビジネス拡大を図る狙いがあります。



 

補足:設問別に見るヒントの位置

設問

該当段落

説明

設問1

序論・課題提示(❶~❷)

A社経済圏拡大と会員増加の前提構造

設問2

課題提示と技術導入(❷~❸)

ポイント付与の拡張性とUXの課題

設問3

信頼スコアの導入(❹)

安心安全なコミュニティ形成

設問4(1)

NFTマーケットの導入背景(❺)

会員ニーズへの対応

設問4(2)

NFTスマートコントラクト(❺)

二次流通時の著作還元

設問4(3)

NFTデータ可視化(❻)

企業連携によるマーケ支援

構造マップ

1. A社の戦略方針と現在の事業構成

   └ SNSを中核とした経済圏の拡大


2. 現状の課題

   └ MAU鈍化+ポイントシステムの非効率


3. 解決策①:ポイント付与システム改善

   └ ブロックチェーン・スマートコントラクト導入


4. 解決策②:信頼性の担保

   └ スコア×監視の連携で健全なSNS環境


5. 解決策③:NFTマーケットプレイス構築

   └ 会員交流・唯一性特典・著作還元・UX向上


6. 未来戦略:NFTデータの可視化と企業連携

   └ 提携企業とマーケティング活用


構造把握のポイント

  • ストーリーは「課題 → 解決 →展望」の流れ

  • 各技術要素(ブロックチェーン/スマートコントラクト/NFT)は、UX・収益性・信頼性の改善手段として導入されている

  • 会員増・貢献促進 → UX強化 → MAU増加 → 経済圏拡大という因果ループが全体の主軸

 
 
 

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